「フリー」の時代はユーザー主導

予め断っておくが、「フリー」というトレンドを取り上げるのは、私のオリジナルではない。これは、流行語にまでなった「ロングテール(The Long Tail)」という現象を言い当てたワイアード誌(Wired)のチーフ・エディタであるクリス・アンダーソン(Chris Anderson)が2008年に出版する書名のタイトルである。

「ロングテール」と「フリー」という概念には関連性がある。クリス・アンダーソンによれば、「フリー」というのは、情報技術の資源当たりの価格が無料(フリー)に近くなったので、資源が有限だったこれまでの時代では取り扱えなかったような商品まで消費者に届けることができるようになり、ロングテール現象を生み出したという訳である。クリス・アンダーソンが、米国メイン州の港町キャムデン(Camden)で毎秋開催されているポップテック2006(Poptech2006)というイベントでプレゼンした内容をベースに、具体的な事例を交えながら解説しよう。

情報技術の資源当たりの価格が「フリー」に近くなった例として、半導体、ストレージ(記憶装置)、帯域幅(Bandwidth)がある。ムーアの法則により、半導体の集積度は上がる一方であり、メモリーであれば1ビット当たりの半導体の価格はどんどん「フリー」に近づきつつある。このような半導体の価格低下を背景に、これまでPCのインターフェイスは、コマンドライン方式の簡素なものであったが、今では、動画や音声なども伴うリッチなユーザー・インターフェイスが可能となっている。以前は、半導体の容量に限度があったため、メモリーにどんなプログラムを常駐させるか、画面に何を表示するかといった制約があり、ユーザーに選択肢が殆どなかったが、今では潤沢な半導体を利用して、ユーザーが好きなコンテンツを画面に表示することができる。

ストレージもコモディティ化しており、1バイト当たりの価格も「フリー」に近づいている。グーグルが提供している電子メールサービスであるジーメイル(Gmail)は、無料で2.8Gバイトものストレージを各ユーザーに提供する。2007年4月にサンフランシスコで開催されたWeb2.0EXPOにおいて、グーグルのエンタープライズ部門の社員が解説していたところによれば、これからの電子メールの管理は、構造化されたデータ(Structured Data)よりも、非構造化されたデータ(Unstructured Data)を如何に取り扱うことができるかがポイントであると述べた。彼は、よい例として、IBMのロータス・ノーツ(Lotus Notes)やマイクロソフトのアウトルック(Outlook)と、ジーメールを比較して取り上げた。ノーツやアウトルックでは、受信したメールをユーザーがフォルダーに分類整理することが前提となっているが、ジーメールにはフォルダーはない。過去のメールを探したい場合には、強力なグーグルの検索エンジンを利用すればよいので、受信したメールを悩みながらフォルダーに分類する必要はないという訳である。また、会社によっては、保存した電子メールの総容量が一定水準を超えると、削除するかローカルなハードディスクに移管することを余儀なくされる。ディスクの容量を管理している人の立場が強く、従うしかない。しかし、ジーメールの場合には、ストレージの価格は「フリー」に近く、容量は十二分に大きいので、構造化されていないメールという情報は、とりあえず溜めて、後で検索すればいいという発想である。もちろん、ユーザーの判断で不要なメールは捨ててもいい。

資源としての電波は有限である。だから、例えば、テレビ局はどんな放送をいつ放映するかという強力な決定権を持つ。しかし、ユーチューブのように電波の帯域幅にとらわれないサービスが出てくると、映像を流す権利を独占する必要はなく、ユーザーが自分で作成したコンテンツ(UGC: User Generated Content)を自分自身で自由に流せるような環境が出来てしまう。これは、電波の既得権に安住していた人たちから見れば、想像もし得なかった経済モデルであり、脅威だ。

このように、情報技術の資源が「フリー」になると、限られた資源を管理する人が主導権を握る時代が終焉を迎え、ユーザーが主導権を握ることになる。

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