世界の知を集めろ、「コレクティブ・インテリジェンス」

先端技術分野のイノベーションは、自国内だけで閉じた研究開発体制で行おうとせずに、グローバルな規模でオープンに知を結集して行われる時代になった(オープン・イノベーション)。グーグル、インテル、マイクロソフトなど米国の主要IT企業は、インド、中国などに次々と研究開発拠点を設置し、世界規模で開発競争を行っている。物理的な研究開発拠点の設置に加え、潤沢なIT環境を利用すれば、インターネット上でより速く、より効率的に世界規模で知の結集をはかることが可能になる。このような世界中の知に「クラウドソーシング」して最も優れたソリューションを見つけることを「コレクティブ・インテリジェンス」という。

イノセンティブ(Innocentive)は、研究開発上の課題を抱える企業が、自社内の研究者だけを利用するのではなく、インターネット上でその課題解決を世界中の研究者に呼びかけ、最も優れたソリューションを提供した研究者に報奨金を与えるプラットフォームである。課題解決を求める企業は、イノセンティブと契約し研究開発上の課題をイノセンティブのサイトに掲載する。課題解決にチャレンジする研究者は、イノセンティブに登録した上で、ソリューションをオンライン上で提出する。課題を提示した企業が、研究者達から提示されたソリューションの内容を検討して、ベストなものを選択する。イノセンティブは、ベスト・ソリューションを提示した研究者に報奨金を支払うという仕組みである。例えば、現在では、「汎用品としての発光素子。期限は2007年10月16日。報奨金は2万ドル」というような内容が、イノセンティブのページに掲載されている。イノセンティブと同様に、ナインシグマ(NineSigma)も、オープンイノベーションを考えている研究開発企業と、技術提案を考えている研究者をインターネット上でマッチングさせるビジネスを展開している。

企業内で死蔵されている知的財産(Intellectual Property)に目をつけ、技術ニーズを求める企業と、技術シーズを求める企業とをインターネット上でマッチングさせるサービスを提供しているイェット・ツー(yet2)も興味深い。IPなどのインタンジブル・アセットが、多くの企業価値の4分の3にも上るという事実に目をつけた同社は、IPの評価、ライセンシング、売却、購入など、技術移転を求めるシーズ、ニーズ双方の立場の企業を支援する。

ソフトウェア開発分野で、広くエンジニアに開発を呼びかけ、優れたコードを書いたエンジニアに報奨金を払う有名な企業がある。トップコーダー(Topcoder)は、自らをソフトウェア企業であると紹介している。同社は、ソフトウェアを再利用可能な形でマネージできる部品(ピース)に分け、それぞれの部品を作成するためのコンテストを行う。毎週、オンラインによるシングル・ラウンド・マッチが開催され、年に2回はオンラインとオフライン双方によるコンテストが開催される。同社は、コンテストによって最も優れたコードを書いた開発者に報奨金を与え、それらの部品(ピース)を組み立てソフトウェア製品を完成させる。エンジニアにとって有名なグーグルのコード・ジャム(code jam)というコンテストは、トップコーダーのプラットフォームを利用して開催されている。

「コレクティブ・インテリジェンス」には、企画段階から行われるものもある。SaaS (Software as a Service)で有名なセールスフォースは、ソフトウェアをアップエクスチェンジ(The AppExchange)というプラットフォームに載せてオンラインで提供しているが、これらのソフトウェア群のクオリティを上げるために「コレクティブ・インテリジェンス」が利用されている。アイデア・エクスチェンジ(idea exchange)と呼ばれるサービスは、セールスフォースの顧客であるであるかどうかを問わず、新製品のコンセプトについての提案、既存の製品の改良、製品開発マネージャーとの意見交換を可能とするプラットフォームである。これまで、アンテナ的に新商品に対する意見を限定された顧客に求めたりするケースはあったが、ネットを用いて広く自社製品に対する意見が集まるように仕組みが必要であろう。