実用化が始まるセマンティック技術

コンピュータは、人間が入力した情報を忠実に実行するが、通常、その入力された情報の意味を人間のように理解している訳ではない。情報の意味や情報の関連性などを理解し、その理解に基づいて処理を行うのが、セマンティック技術である。

セマンティック技術に関する米コンサルティング会社であるプロジェクト10X(Project10X)は、2006年のセマンティック技術の市場規模は21億ドル程度に過ぎないが、2010年には524億ドル、2015年には5,020億ドルに急速に成長すると見込んでいる。セマンティック技術が適用されるのは、データの統合、情報検索、情報共有分野などが代表的である。

実際にどのようにセマンティック技術が適用されているのかを見てみよう。2007年5月に米カリフォルニア州サンノゼで開催された「2007 セマンティック・テクノロジー・カンファレンス(2007 Semantic Technology Conference)」では、多くのスタートアップ企業の参加者が大半であったが、その他にも、航空宇宙局(NASA)、国防総省(DOD)、米空軍(US Air Force)などの政府機関を始め、ロッキード・マーチン、ボーイング、フォード・モータース、マイクロソフト、IBM、オラクル、サン・マイクロシステムズ、グーグル、ヤフー、ウォールマートといった大企業からの参加もあった。

このカンファレンスで紹介された例として、セマンティック検索技術企業であるテキストディガー(TextDigger)が持つソリューションを活用した米IT系ニュース企業のシーネット(CNET Networks)の例を取り上げる。

シーネットは、一般的なIT関連のニュースであるCNet News、ガジェットのレビューを紹介するCNet Review、ショッピングサイトのCNet Shopper、エンタープライズIT関連ニュースを提供するZD Netなど、多くのサイトを運営している。これらのサイトには検索機能があるが、過去に入力された検索キーワード(クエリー)の情報を基にして、入力したクエリーとそれに関連した情報も検索できるコラボラティブ・フィルタリング(Colaborative Filtering; CF)機能が搭載されている。しかしCFを利用した検索は、頻繁に利用されるクエリーに関しては多くの関連情報が検索されるが、検索頻度が少ないクエリーに対しては関連情報が少なくなるというロングテール現象が起こる。

そこで、シーネットは、テキストディガーが開発した多義性解消技術(Word Sense Disambiguation : WSD)を採用した。WSDとは、自然言語処理技術の一つで、多義語の意味を文脈に応じて特定し、検索時の質問の曖昧さを解消してくれる。この技術によって、ユーザーが入力したクエリーに当てはまる情報がない場合でも、そのクエリーに似た意味を持つ情報を取り上げた検索結果が表示されるために、キーワード検索のロングテール化を防ぐことができるという。

また同時に、WSDの技術はキーワード広告の収益を向上させることができる。従来はクエリーに関連した広告まではカバー出来ず、ユーザーに届けることができていなかった。しかし、WSD技術を採用したおかげで広告がユーザーの目に触れる機会が拡大し、実際、広告のクリック率も7.9%から19.1%まで向上したという。

セマンティック技術の他の応用例を見てみよう。セマンティック技術は、情報の意味を捉えることができるので、字面だけを見ると異なる情報でもその意味を把握することにより、情報の共有や名寄せなどに利用されることが期待されている。

米ヤフーもセマンティック技術を利用している企業の一つであり、コンテンツの共有や再利用に活用している。ヤフーでは、社内の各担当部門が、金融情報(Yahoo Finance)、飲食情報(Yahoo Food)、映画情報(Yahoo   Movies)、カジュアルニュース(Yahoo Underground)などのウェブサイトを独立して構築している。そのため、膨大な量のコンテンツが分散して蓄積されている。そこで、同社は、コンピュータが取り扱う情報の分類や検索などの自動化・効率化に有効なRDF(Resource Description Framework)と呼ばれる仕様の専門家をヤフー・メディア・グループに迎え、RDFなどのセマンティック技術を使ったウェブサイトの構築に力を入れている。セマンティック技術を取り入れた同社では、異なるサイト間においてコンテンツの共有・再利用を可能にし、ユーザーが分野を横断した関連コンテンツを検索することが可能となり、ユーザーの使用感が改善されると期待されている。

まだ、セマンティック技術は開発途上ではあるが、徐々に実用化されているのである。

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