世界の知を集めろ、「コレクティブ・インテリジェンス」

先端技術分野のイノベーションは、自国内だけで閉じた研究開発体制で行おうとせずに、グローバルな規模でオープンに知を結集して行われる時代になった(オープン・イノベーション)。グーグル、インテル、マイクロソフトなど米国の主要IT企業は、インド、中国などに次々と研究開発拠点を設置し、世界規模で開発競争を行っている。物理的な研究開発拠点の設置に加え、潤沢なIT環境を利用すれば、インターネット上でより速く、より効率的に世界規模で知の結集をはかることが可能になる。このような世界中の知に「クラウドソーシング」して最も優れたソリューションを見つけることを「コレクティブ・インテリジェンス」という。

イノセンティブ(Innocentive)は、研究開発上の課題を抱える企業が、自社内の研究者だけを利用するのではなく、インターネット上でその課題解決を世界中の研究者に呼びかけ、最も優れたソリューションを提供した研究者に報奨金を与えるプラットフォームである。課題解決を求める企業は、イノセンティブと契約し研究開発上の課題をイノセンティブのサイトに掲載する。課題解決にチャレンジする研究者は、イノセンティブに登録した上で、ソリューションをオンライン上で提出する。課題を提示した企業が、研究者達から提示されたソリューションの内容を検討して、ベストなものを選択する。イノセンティブは、ベスト・ソリューションを提示した研究者に報奨金を支払うという仕組みである。例えば、現在では、「汎用品としての発光素子。期限は2007年10月16日。報奨金は2万ドル」というような内容が、イノセンティブのページに掲載されている。イノセンティブと同様に、ナインシグマ(NineSigma)も、オープンイノベーションを考えている研究開発企業と、技術提案を考えている研究者をインターネット上でマッチングさせるビジネスを展開している。

企業内で死蔵されている知的財産(Intellectual Property)に目をつけ、技術ニーズを求める企業と、技術シーズを求める企業とをインターネット上でマッチングさせるサービスを提供しているイェット・ツー(yet2)も興味深い。IPなどのインタンジブル・アセットが、多くの企業価値の4分の3にも上るという事実に目をつけた同社は、IPの評価、ライセンシング、売却、購入など、技術移転を求めるシーズ、ニーズ双方の立場の企業を支援する。

ソフトウェア開発分野で、広くエンジニアに開発を呼びかけ、優れたコードを書いたエンジニアに報奨金を払う有名な企業がある。トップコーダー(Topcoder)は、自らをソフトウェア企業であると紹介している。同社は、ソフトウェアを再利用可能な形でマネージできる部品(ピース)に分け、それぞれの部品を作成するためのコンテストを行う。毎週、オンラインによるシングル・ラウンド・マッチが開催され、年に2回はオンラインとオフライン双方によるコンテストが開催される。同社は、コンテストによって最も優れたコードを書いた開発者に報奨金を与え、それらの部品(ピース)を組み立てソフトウェア製品を完成させる。エンジニアにとって有名なグーグルのコード・ジャム(code jam)というコンテストは、トップコーダーのプラットフォームを利用して開催されている。

「コレクティブ・インテリジェンス」には、企画段階から行われるものもある。SaaS (Software as a Service)で有名なセールスフォースは、ソフトウェアをアップエクスチェンジ(The AppExchange)というプラットフォームに載せてオンラインで提供しているが、これらのソフトウェア群のクオリティを上げるために「コレクティブ・インテリジェンス」が利用されている。アイデア・エクスチェンジ(idea exchange)と呼ばれるサービスは、セールスフォースの顧客であるであるかどうかを問わず、新製品のコンセプトについての提案、既存の製品の改良、製品開発マネージャーとの意見交換を可能とするプラットフォームである。これまで、アンテナ的に新商品に対する意見を限定された顧客に求めたりするケースはあったが、ネットを用いて広く自社製品に対する意見が集まるように仕組みが必要であろう。

ブラウザつながりのミ・ディアム

ブラウザは、一人のユーザーをネットの世界へ導く窓である。その窓を通して、SNSサイトやウィキのページに行けば、他のユーザーとのソーシャルな関係が生まれる。しかし、ブラウザ自身にソーシャルな機能が組み込まれたとしたらどうであろうか。例えば、あるユーザーがアップルのオンライン・ストアでiPodの購入を迷っていたとする。そのときに、別の量販店のオンライン・ストアで同じ型のiPodの価格をチェックしているユーザーと会話ができたら、価格情報を交換し、よく吟味した後に購入することが可能になる。ブラウザを通して「クラウド・ソーシング」ができるのだ。

このようなブラウザ自体にソーシャルな関係をもたせることができるのが、ミ・ディアム(me・dium)である。ミ・ディアムは、ファイアーフォックス(Firefox)のアド・オン(機能拡張)ソフトウェアである(最近、インターネット・エクスプロア最新版でも対応可能になった)。ミ・ディアムをインストールし、ユーザー登録手続きを済ませると、ファイアーフォックスの右側にサイドバーが現れる。サイドバーの上段には、ウェブスフィア(websphere)を模した球形上のマップの中にミ・ディアムのユーザーたちのウェブサイト閲覧状況が表示される。マップの中心には、あなたとあなたが見ているウェブサイトのタイトルが表示され、その周りにはあなたが見ているウェブサイトと関連性のあるウェブサイトをチェックしているユーザーたちが表示される。視覚的なインターフェイスなので、自分が今見ているウェブサイトの内容に近いサイトをみているユーザーが誰なのかがすぐにわかる。サイドバーの下段にはチャット用のウィンドウがあり、上段に表示される他のユーザーとのチャットを行うことができる。また、友達登録したユーザーが、今どんなサイトをブラウジングしているかも分かるので、一緒にオンライン・ショッピングに行こうと誘うことも可能である。

ミ・ディアムは、現実世界で自分の周りの人が自分の意志決定や行動にかなり影響を与えるという当たり前の環境をオンラインに持ち込んだものだ。ミ・ディアムのホームページでは、通りを歩いているときにどのレストランに入ろうかという状況を例に挙げて説明している。3つのレストランがあったとして、それぞれのレストランの特徴が、一つ目はガラガラ、二つ目は満席、三つ目は2人の友達が食事をしているという場合、その状況はあなたの行動に大きな影響を与えるだろうという例を引き合いに出している。ミ・ディアムは、ブラウザの背後に隠れた多数のユーザーを目に見えるようにし、彼らとリアルタイムにつなげてくれる「ソーシャル・ブラウジング」を可能にする。ミ・ディアムと似たようなサービスにアザーズ・オンライン(OthersOnline)がある。アザーズ・オンラインは、似たようなプロファイルをもつユーザーを、ブラウザ上のドロップダウンリストに表示して結びつけることに重点をおいているが、ミ・ディアムの方が圧倒的に視覚に訴えるインターフェイスを持つ。

ミ・ディアムは、ガートナーのシンポジウムであるITXPO2007でも紹介され、次世代のコラボレーションツールとして注目を浴びた。ただ、その反面、プライバシー保護や煩わしさを指摘する声もあり、今後の改善が期待されている。

中抜きの破壊力「マーケットプレイス」

ITは見知らぬ人との交流を可能にする。それは同じ興味を持つ友人とのネットワーキングなどソーシャルな面だけでなく、ビジネス利用としても多くの企業や人の中から、自分が探している企業や人とのマッチングをはかる「マーケットプレイス」を設営することも可能だ。身近な例ではオークションサイトが思いつく。世界中のユーザーに「クラウドソーシング」することで、不要なものの処分や、入手困難なレアモノの獲得が容易になった。

ITを利用して「マーケットプレイス」を設置するということの本質は、これまでマッチング自体を生業としてきた人たちを中抜きするということだ。例えば、現実世界では、金の貸し借りは金融機関が介在することで行われているが、潤沢なIT環境の下では、金を借りたい人と貸したい人とのマッチングをはかることは容易である。

米サンフランシスコにあるプロスパー(Prosper)は、金を借りたい人と貸したい人との間の「マーケットプレイス」である。ロンドンのゾーパ(Zopa)と似たサービスであるが、プロスパーの方が急成長中である。ユーザー数は33万人以上、貸付総額は7千万ドルを超える。プロスパーでは、金を借りたい人は、希望金額、最大支払い可能な利息を始めとして、何に資金を必要としているのか、自分の夢や希望又はビジネスプランを明記する。結婚指輪が買いたい、引っ越しをしたい、ブティックを開業したいなど、その内容は様々だ。金を貸す用意のある人は、希望の金利と、融資可能な金額(50米ドル以上25000米ドル以下)を入力する。互いに必要な情報を登録した後、プロスパーのオークションシステムにより、最も低い金利で提示した貸し手から順に融資を実行することになる。

プロスパーのビジネスモデルは、借り手、貸し手双方からの手数料である。借りからは、賃借契約成立時点で、1%又は2%の手数料を徴収する。貸し手からは、年率0.5%又は1%分の手数料を徴収する。

他にも、ビジネスの中抜きを迫る「マーケットプレイス」として今後成長が予想されるのが広告の仲介である。インターネット上の広告モデルであるアドセンス(Adsence)、アドワーズ(Adwords)で莫大な収益を得ているグーグルは、ディスプレイ広告(バナー広告)、動画広告、携帯電話向け広告などにも注力し、オンライン広告市場での立場を確固たるものにするだけでなく、従来メディアの広告仲介業にも本格参入しつつある。

2006年11月に、グーグルはインターネット経由で新聞広告スペースの販売を行うグーグル・プリント・アズ(Google Print Ads)を試験的に参入した。全米50誌の新聞広告枠を、グーグルのシステムを通じて広告主100社に対して販売した。広告主は、アドワーズのインターフェイスを通じて、全国紙・地方紙いずれの新聞広告枠も購入できる。広告を掲載したい新聞を選んで入札し、広告デザインをアップロードすると、新聞社が入札額やデザインを見た上で採用・不採用の決定を行う。2007年7月にグーグルはこの広告枠の販売対象誌を225誌以上に拡大し、合計3000万部をカバーするまでに拡大している。ニューヨークタイムス(New York Times)やワシントンポスト(Washington Post)も参加している。

グーグルは、ラジオ広告スペースについても同様のシステムを導入している。ラジオ向けの広告配信を手がけていたディーマーク・ブロードキャスティング(dMarc Broadcasting)を1.2億ドルで買収しており、この技術を基に、2007年6月にグーグル・オーディオ・アズ(Google Audio Ads)を正式に開始した。

広告分野の「マーケットプレイス」は、広告代理店にとっては脅威であろう。透明性、公正さ、低コストなど、時代のニーズはITを駆使した「マーケットプレイス」を支持する方向にある。ITが持つ破壊的な力に備える必要がある。

「テイスト・シェアリング」で音楽生活を豊かに

誰しも、同じ音楽テイストを持つ友達から自分の知らない音楽を紹介された経験があるだろう。潤沢なITインフラを用いて、会ったこともない世界中の音楽ファン達と好きな音楽やアーティストの情報などを共有して楽しむのが「テイスト・シェアリング(Taste Sharing)」である。

2007年5月、米大手メディアCBSが2億8千万ドルで買収すると発表したイギリスの人気音楽サイトであるラスト・エフエム(Last.fm)は、 「テイスト・シェアリング」サービスの代表格である。ちなみに、CBSは、動画ブログサービスのウォールストリップ(Wallstrip.com)を買収したり、次世代インターネットTVのジュースト(Joost)に出資したりと、インタラクティブ・メディアとしてのウェブ系サービスに力を入れている。

ラスト・エフエムは、200カ国以上に1500万人以上のユーザーを持つ。ユーザーの音楽の嗜好を分析し、膨大な数の他のユーザーの嗜好データの分析結果を利用して、ユーザーのテイストに合った音楽を推薦したり、ユーザーに合ったストリーミング・ラジオを提供したりする。また、同じ音楽テイストを持つユーザーどうしを繋ぐソーシャルネットワーキングサービス(SNS)としての機能もある。性別、年齢別、居住国、プロフィールや音楽テイストから自分の嗜好と合う友達を検索したり、お気に入りのアーティストのライブの情報を共有して友達を誘ったりすることもできる。

「テイスト・シェアリング」するためにユーザーに面倒な負担をかけてはならない。面倒な操作を要求するとユーザーはすぐに逃げてしまう。ラスト・エフエムの場合には、最初にGPL(ジェネラル・パブリック・ライセンス)のオープンソース・ソフトウェアをダウンロードするだけだ。ダウンロードしてからは、「テイスト・シェアリング」していることをユーザーに感じさせない。例えば、私がアイ・チューンズで音楽を聞けば、そのトラック情報がラスト・エフエムのサーバーに送られる(ラスト・エフエムでは、この処理をスクロブル(Scrobble)と呼んでいる)。ラスト・エフエムは、そのサービスを支える中核的エンジン(オーディオ・スクロブラー・ミュージック・エンジン(Audioscrobbler music engine))を持ち、毎日ユーザーが1000万回以上スクロブルするデータを処理している。ユーザーが音楽を聴けば聴くほどラスト・エフエムの音楽プラットフォームは巨大化し、完成度を高めて行く。皆がインターネットを使い込めば使い込むほど、ページランクを基盤とするグーグルの検索エンジンが賢くなるのと何か似ている。

スタンブルアポンで「ソーシャルディスカバリー」

検索するとか、フィード(Feed)を読むと行った行為の背景には、ユーザーに何か特定の目的意識で情報を得たいという意思がある。しかし、人間というものは、自分の力だけでは欲しい情報を100%得ることはできない。前に書いたソーシャルブックマークは、自分と同じ関心を持っているユーザーが持つ自分の知らない情報を教えてくれるテクノロジーだ。フォークソノミーであるソーシャルブックマークは、タグで他のユーザーと繋がる技術なので、タグに設定した明示的なキーワードに関心がある場合には、新たな発見をすることが可能だ。

しかし、特定のキーワードが思いつかないような場合であっても、自分の関心あるトピックの中で大勢の人が勧めてくれるサイトがあれば見たいと思う人は多いであろう。そんな新たな「発見」を満たしてくれるサイトが、スタンブルアポン(StumbleUpon)と呼ばれる「ソーシャルディスカバリー」のサービスである。

スタンブルアポンは、まず予め用意された500のトピックの中から自分の関心あるトピックを設定しておく。例えば、私の場合には、コンピュータ・グラフィックス、サイバーカルチャー、インターネット・ツール、コンピュータサイエンス、マックOS、写真、旅行などを自分の関心あるトピックとして設定している。後は、ブラウザ(インターネット・エクスプローラーか、ファイアーフォックス)に付加するスタンブルアポンのツールバーをダウンロードするだけである。

ツールバーに現れる「Stumble!」のボタンを押すだけで、次から次へと自分の知らないサイトが出てくる。勿論、自分が設定したトピックに関係あるものだ。ボタンを押すだけの簡単操作なので、テレビのリモコンのボタンをパチパチ押すだけでテレビの画面が変わる感覚と酷似している。表示の対象を写真や動画だけに絞り込むこともできる。次から次へと現れるサイトを選定しているのは、300万人を超えたスタンブルアポンのユーザーだ。「Stumble!」のボタンの横に、親指を上げた拳のボタンと、親指を下げた拳のボタンとが並んでいる。ネットワーフィンをしている最中に気に入ったサイトがあれば、「I Like it!」の親指を上げた拳のボタンを押すと、あなたもサイトの推薦人の一人になる。自分が「クラウドソーシング」の受益者にもなれるし、「クラウドソーシング」の提供者にもなれる。また、スタンブルアポンのユーザー(スタンブラー)の中で気に入った人を友達登録し、友達のお気に入りサイト情報をフィードで受信することもできる。そうすれば、自分の求めていた情報に近い発見が、極く簡単な操作で得られるのである。

2007年5月、大手ショッピングサイトのイーベイ(eBay)がスタンブルアポンを75百万ドルで買収すると発表した。まだ、スタンブルアポンのサービスをイーベイの中に組み込むことは行われていないが、いずれイーベイのユーザーに「ソーシャルディスカバリー」を体験させて、購買意欲を掻き立てるような使い方をするのではないだろうか。

「コンテンツ・レーティング」による群衆の叡智

アマゾン(Amazon.com)で買い物をされた方は経験があるだろうが、ユーザーが商品の内容、質、使い勝手に関して5段階の評価(5つ星)を書いている。アマゾンの場合には、個々のユーザー評価がそれぞれ掲載されている「評判(Reputation)メカニズム」を組み込んだサービスである。

このようなユーザーからの評価をより多くの大衆に求め、結果を総合して「群衆の叡智」を示すのが、「コンテンツ・レーティング(content rating)」又は「投票(Vote)システム」と呼ばれるものである。これも大衆を利用しているという意味で、「クラウドソーシング」の一種である。

「コンテンツ・レーティング」の分かりやすい例として、「ホット・オア・ノット(Hot or Not)」というサイトがある。 ウィジェットとしての利用も人気上昇中だ。男性、女性の写真(性別、年齢帯で絞り込み可能)がクリックする度に次から次へと現れ、その人を「Hot!(格好いい、イケテル)」と思うかどうかを10段階のレーティングで評価する。その結果、その人の総合評価が10段階で表示される。ただそれだけだ。気に入った人の写真があれば、リンクを貼り共有することもできる。「ホット・オア・ノット」のインターフェイスをより洗練して同様のサービスを提供している「マッカブル(mackable.com)」というサイトもある。

「コンテンツ・レーティング」は、ユーザーが楽しんでレーティングするものであり、通常は見返りを要求するものではないが、ユーザーにインセンティブを与える工夫をしているサービスもある。ヘリウム(Helium)は、まず、ポップカルチャーでも政治問題でも何でもいいので、ユーザーが自分の意見をアップする。すると、自分の意見と、他のユーザーによる意見が比較対立する形でヘリウムのサイトにアップされる。その他の何百万というユーザーが、どちらの意見に同調するかを投票する。投票が活発な論争(ディベート)ほど、ヘリウムのサイトの中で上位に表示される。投票数を多く獲得した意見を書いたユーザーには、ヘリウムが広告料で稼いだ利益の一部の分配を受けることができる。経済的なインセンティブがあるので、ユーザーは自分の意見に磨きをかけ、ますますヘリウムでのディベートは面白くなる。まさに、ディベート好きな米国ならではのサービスである。

レーティングや評価内容を他のユーザーと共有することで、ユーザー間でのソーシャルな関係を構築するプラットフォーム・サービスも登場している。「レイト・イット・オール(RateItAll)」は、ガジェット、ブログ、セレブ(有名人)、政策、旅行、スポーツ、地域情報などの評価をウェブ又はウィジェット上で他のユーザーと共有することができる。

「フリー」のところで紹介した「ディグ(Digg)」も「投票システム」が基本にある。気に入ったニュースやブログのエントリーがあったら、それをブックマークする感覚で「ディグ(掘り起こす)」する。つまらなかったら葬る(Bury)。一ユーザーが「ディグ」したら、1票投じたことになる。投票結果の多い記事やエントリーが「ディグ」のトップページの上位に表示される。「ディグ」のフィードをRSSリーダーに登録しておけば、世の中の関心事項は直ぐに把握できてしまう。「ディグ・ラボ(Digg Lab)」では、大衆が「ディグ」しているリアルタイムの様子を、ビジュアルに表示する面白いインターフェイスを公開している。中でもビッグ・スパイ(Big Spy)では、画面の上から、皆が「ディグ」している記事のヘッドラインがどんどん落ちてきて、「ディグ」している数が多い記事ほど、そのヘッドラインが大きなフォントで表示される。

グーグルは、ページランクと呼ばれる手法で、リンクされたページの質と量、リンクしたページの内容などを数値化し、膨大な行列計算をしたうえで、検索結果を表示している。グーグルは極めて技術指向性の強い会社なので、人間を介さずにユーザーが求める情報をランク付けして表示する。一方、ディグは、多数の人間の投票行動によって、情報をランク付けして表示するのである。今や、インターネット上のランク付けのノウハウは、企業のビジネスを左右する大きな問題にまでなっている。

ディグは、テクノロジー系のニュースを最初に取り扱ってきたので、ディグのユーザーも必然的に新しい技術好きのギークが多かった。そういう意味では、ユーザーのバックグラウンドや嗜好性にある種の共通点が見られるので、群衆の叡智がうまく働いた面があるだろう。

実際に、ディグのアデルソンCEOと面談した際に彼が示した興味深いグラフでは、2006年7月までは、技術系のコンテンツが他の一般のコンテンツ(例えば、イラク戦争のニュース)よりも多くディグされていたが、その後両者が拮抗し、2006年10月からは非テクノロジー系のコンテンツの方が主流となっている。

取り扱う情報の範囲が広がれば、ユーザーの範囲も広がる。ユーザーの範囲が広がれば、ますますディグする情報の範囲が広がる。まさに、ディグのユーザーは群衆となっていくだろう。でも、その場合、群衆の叡智のクオリティーは維持できるだろうか。一般的なコンテンツになるほど、流行や感覚に左右される可能性は高い。群衆の叡智ではなく、単なる群衆心理を表したサイトになってしまうのか、それとも群衆の叡智がページランクを凌駕するのか。

ヒューマン・パワーの「フォークソノミー」

「クラウドソーシング」は、あるユーザーが他の大多数のユーザーの知恵を借りてゆるやかなネットワークを構築する場合もある。自分と同じ関心を持つユーザーがどんな情報を持っているのか、自分の知らない新しい発見があるのではないかというのは皆が気になるところである。また、自分と同じベクトルを持つユーザーが持つ情報をかき集めれば、簡便に知の集大成ができあがる。

このような社会的なネットワーキングの関係を構築するのが、「フォークソノミー(Folksonomy)」の役割である。「フォークソノミー」とは、人々(folks)+分類法(taxonomy)を合わせた造語だ。従来の分類法は、図書館での本の分類のように、情報を管理している人が体系立った分類法を作成し、ユーザーはその分類法に従うしかなかった。しかし、「フォークソノミー」では、写真や動画やブログのエントリーやニュース記事など、ユーザーが気に入った一つ一つの情報に自分でタグ(tag)を付けて行くことができる。例えば、自由の女神を撮った写真について、その写真の内容を表現する「自由の女神」、「ニューヨーク」、「アメリカ」などのキーワード(タグ)を付けて行く。ヤフー傘下の写真共有サイトのフリッカー(Flickr)では、一月当たり250万もの写真についてタグ付け作業が行われており、タグの巨大なデータベースとなっている。「ニューヨーク」というタグで検索すると、自分の持っていないニューヨークに関する写真が数多く出てくる。タイムズスクエアであったり、黄色のタクシーであったり、他のユーザーが「ニューヨーク」というタグが適切だと思った写真がずらずらと出てくる。新しい発見があるという訳である。

写真を例にとると「フォークソノミー」は趣味的なものと取られがちであるが、ブログのエントリーやニュース記事の場合には、自分がタグをつけてブックマークしていた情報に、同じくブックマークしている他のユーザーのタグ付け情報から、自分の知らない情報に出くわすことがある。タグ付け情報を介して、他のユーザーとゆるやかに繋がるこの技術は「ソーシャルブックマーク」と呼ばれている。米国では、デリシャス(del.icio.us)が、日本では、はてなブックマークを利用している人が多い。ソーシャルブックマークを使うと、自分がブックマークした情報に何人位の人が同様にブックマークしているのかも分かるので、情報の関心度合いも一目瞭然だ。

このように「フォークソノミー」は、群衆による巨大な集合知の中から自分が探し求めている情報や、それに隣接した情報を探し当てることができる。通常の検索エンジンが強力なコンピュータ・パワーを使って検索しているのに対し、「フォークソノミー」は、強力なヒューマン・パワーを使って情報を探し求めるツールとも言える。

「クラウドソーシング」の典型技術ウィキ

「潤沢経済」下のいわゆるWeb2.0的企業は、他人任せのビジネスモデルだと述べた。他人任せと言えば、アウトソーシングという言葉が思いつくが、これは、外部の2〜3の組織や企業や個人からソフトウェアやサービスを調達することを指す。しかし、「潤沢経済」下では、豊富なITインフラを生かしてより多くの人の知恵や知識を活用することが可能になる。ジェームズ・スロウィッキー(James Surowiecki)の「みんなの意見は案外正しい」という本でも指摘されているように「群衆の知恵」を使うことでよりよいサービスを提供することができるのである。大衆から知識や知恵を調達するという意味で、これを「クラウドソーシング(Crowdsourcing)」と呼ぶ。あるサービス提供者が大衆から知恵を借りる場合もあるし、あるサービスのプラットフォームを利用することで、個々のユーザーが大衆から知恵を拝借することもできる。そういうソーシャルな面も含めて、ここでは「クラウドソーシング」としたい。

「クラウドソーシング」の代表格はウィキ(Wiki)である。ウィキとは、ハワイ語で「速い」という意味を持つ。ソフトウェアのアジャイル開発(迅速かつ適応的にソフトウェアを開発する手法)で有名なウォード・カニンガム氏が発明した技術で、ウェブ・サーバー上のページの迅速な作成・更新を可能とするものである。ウィキ技術を使えば、誰でも、ネットワーク上のどこからでも情報の書き換えができるようになっているので、共同作業に向いており、コラボレーション・ツールとも言われている。ウィキ技術の代表的なものがウィキペデイア(Wikipedia)だ。ウィキ(Wiki)+エンサイクロペディア(encyclopedia)という名前の由来を持つ。いわゆる集合知(The Wisdom of Crowds)により常に進化しつづけるオンライン百科事典である。現在、200カ国語以上の言語で提供されており、700万以上の項目がある。掲載されている情報の信頼性によりトラブルが生じる場合もあるが、英ネイチャー誌によれば、1項目当たりの誤りの数は、ブリタニカ百科事典と大差ないという調査結果も報告されている。

ウィキを利用した「クラウドソーシング」は辞書に止まらない。ウィキペデイアを運営するウィキメディア財団を率いるジミー・ウェールズは、ウィキア(Wikia)という企業を設立し、広告収入を基にして、映画、政治的な意見、旅行など幅広いテーマごとに1500以上ものコミュニティ・サイトを運営している。また、他のスタートアップ企業の例としては、自動車に関して広く中立的な情報を集めたサイト(Wikicars)や、商品に関するユーザー評価を集約したショッピング検索エンジン(Shopwiki)などがあるが、ビジネスモデルとしては必ずしも盤石とはいえない状況にある。

いずれにしても、ウィキは「クラウドソーシング」の典型例だ。