オフラインでも「ダイレクト」

当たり前のことだが、ユーザーがネットと「ダイレクト」につながるのは、オンライン環境の場合だ。でも、今から飛行機に搭乗しなければならないときなど、何らかの事情で一時的にオフラインになってしまう場合に、折角の「ダイレクト」な関係が白紙になってしまったら、ユーザーもネット側も困ってしまう。オンラインの状態からオフラインになっても、ユーザーが使っているアプリケーションには変化はないシームレスな関係が望まれるところだろう。

米国でエマージング・テクノロジー(Emerging Technology、革新的な新興技術)を披露する場として定評のあるデモ(DEMO)というイベントがある。2007年1月のDEMOにおいて、アドビ・システムズ(Adobe Systems)が研究中のアポロ(Apollo)と呼ばれる新たな開発環境を披露するデモが行われた。そのデモでは、米最大のオークションサイトであるイーベイ専用のアプリケーションが紹介された。普通、イーベイを利用する人は、ブラウザを起動させてブックマークしていたイーベイのサイトに飛ぶのが普通だが、アポロを使うとPCのデスクトップ上にイーベイ専用のアイコンが現れ、それをクリックするだけでイーベイ専用のアプリケーションが起動する。デモでは、任天堂ウィー(Wii)をオークションで競り落とす実演が行われた。そこで、PCをオフラインにした状態で、DEMOの入場者パスを出品する作業が行われた。これまでのブラウザであれば、オフライン環境になった状態で、出品する物の写真をアップしようとすると、「サーバーが接続されていません(Server not found)」などの表示が出ることになるが、アポロを利用して作られたこのアプリケーションは、オンラインかオフラインかの違いを感じさせない。このアポロは、HTML、JavaScript、AjaxやFlashなどの既存のWeb技術を用いて開発できる環境であり、WindowsやMac OSでも稼働するクロス・オペレーティングシステム対応である。2007年6月にエアー(AIR: Adobe Integrated Runtime)という正式名称になったが、まだアドビ・ラボで開発中である。2007年内に正式にリリースされる予定だ。

ユーザーとコンテンツを「ダイレクト」に結ぶウィジェットをこのアポロを活用して、オンライン、オフラインでも利用できるプラットフォームも開発されている。サンディエゴにあるグーウィー・メディア(goowy media)からリリースされているユアーミニズ(yourminis)がそれだ。ユアーミニズを使うと、オンライン環境下でのウィジェット、オフラインのローカル環境下でのデスクトップ・ウィジェット、ブログ用のウィジェットがシームレスに利用できる。ブラウザで利用していたウィジェットをデスクトップに簡単に移動することができる。

別の機会で書きたいが、エンタープライズ分野では、「ソフトウェアかサービスか」というような選択的意見や「ソフトウェア・プラス・サービス」のような複合的意見がある。いずれにせよ、ユーザーが、オフラインか、オンラインか意識せずに、ネットと「ダイレクト」につながる環境は今後のトレンドになるだろう。

パーソナライズド・スタートページで囲い込み

ユーザーがネット接続した場合に必ず見るのがスタートベージ(ホームページ、フェイスページ)である。スタートベージとしてどのページを設定してもらうか、スタートベージをパーソナライズ(カスタマイズ)し、どんな情報を貼ってもらうかという問題に、ネット業界は凌ぎを削る。それは、パーソナライズ・スタートベージは、ユーザーとネットを「ダイレクト」に結ぶ最初の入り口になるからだ。マーケティング上、商店街の入り口に看板を出させてもらえるかどうかは、顧客の呼び込みに大きく影響する。

米国では、若者を中心に、グーグルやヤフーをスタートベージにするのではなく、SNSのマイスペースやフェイスブックをスタートベージにする人も多い。であれば、前に書いたように、フェイスブックにどんなウィジェットを貼ってもらうかという競争が生じる。

グーグルもユーザーの囲い込みに余念がない。グーグルのロゴと検索窓から構成されるグーグルのシンプルなスタートページをユーザーが自由にカスタマイズする環境をアイ・グーグル(iGoogle)と呼んで提供している。壁紙にいくつかのテーマが設定でき、グーグルが提供する数多くのグーグル・ガジェット(Google Gadget、グーグルはウィジェットをガジェットと呼ぶ)をユーザーが自由にスタートベージに貼付けることができる。天気予報や株式情報に始まり、ニュース、ブログの記事一覧、ユーチューブの人気ランキング、ゲームなど、グーグル自身だけでなく第三者が開発したガジェットを自由に選び配置することができる。以前から、グーグルは、グーグル・デスクトップ(Google Desktop)と呼ばれるソフトウェアを無料配布し、ユーザーのローカルな環境の検索を可能にするだけでなく、ブラウザとは別にユーザーのPCの脇にガジェットを自由に配置する機能を提供していた。アイ・グーグルは、特別なソフトウェアのインストールなしにブラウザだけでパーソナライズする環境であり、スタートベージに好きなガジェットを貼って、ユーザーとユーザーが好むコンテンツを「ダイレクト」に結ぶのである。

スタートベージのカスタマイズを専業に行うサービスも人気を呼んでいる。フランス生まれのネットヴァイブス(netvibes)は、150カ国以上で1000万人以上ものユーザーが支持を得ている。ネットヴァイブスのページに行くと、天気予報、ニュース、ブログ、電子メールの受信状況、SNS、検索エンジン、インスタント・メッセンジャー、写真、ビデオ、ポッドキャストなどを配信する小さなウィンドウばかりが並んだ画面が現れるが、ユーザーはごく簡単にこれらの情報を並び替えたり、内容を入れ替えたりして、自分だけのスタートページを作成できる。

ドイツ生まれのページフレークス(Pageflakes)もネットヴァイブスと同様のサービスであり、ユーザーが自由に情報の断片(フレーク)を選択し、並び替えることができる。ページフレークスの場合には、最初にユーザーが興味のある分野(旅行、金融、テクノロジーなど)をいくつか選ぶことで、ページフレークスの方で自動的におすすめパーソナライズ・スタートページを提供してくれる点が、ユーザーに優しい設計になっている。また、2007年7月に、ページフレークスにソーシャルネットワークの機能が追加された。ユーザーのプロフィールページから共通の興味や興味を持つ他のユーザーとつながる。パーソナライズド・スタートページとSNSとの間で、ユーザーとの「ダイレクト」な関係の奪い合いが始まった。

特定の世代を狙ったサービスも登場した。ニューヨークを拠点とするグローバル・グリンド(GlobalGrind)は、ヒップホップ世代をターゲットにパーソナライズド・スタートページをリリースしている(2007年7月現在、α版)。スポーツ、ゴシップなど若者のプリファレンスに合わせている。

ユーザー・エンパワーメントの時代の流れをつかみ、ユーザーとユーザーが好むコンテンツを「ダイレクト」につなぐパーソナライズのためのプラットフォームはますます進化を遂げるだろう。

米国で最もホットなウィジェット(続)

ウィジェットは、コンテンツとユーザーを「ダイレクト」に結ぶだけでなく、ユーザーをディストリビューター(配信する人)に変えてしまうことができる。アマゾン(Amazon.com)が提供するエクスプレス・ユアセルフ・ウィジェット(Express Yourself Widget)を利用してユーザーが自分の気に入った音楽のリストを自分のブログやSNSに載せれば、それを見た別のユーザーがクリックして、楽曲の購入につながるかもしれない。大手出版社のランダムハウスのウィジェットを貼っているユーザーは、新刊を発売する同社のオンラインサイトへウィジェットをクリックしたユーザーを誘導するナビゲーターにもなり得る。調査会社コムスコアの発表によれば、2007年4月だけで、人気のあるウィジェットのユニーク・ビジター数は1億人にも上っており(スライド(Slide)1.2億人、ロックユー(RockYou)0.8億人)、ウィジェットはコンテンツのキラー・ディストリビューション・ツールになりつつある。

このようにウィジェットがビジネス界でも注目され始めれば、ウィジェットに関するプラットフォーム環境を提供する企業も登場する。ウィジェットを開発し、SNSやブログにウィジェットを貼る簡単なツールを提供するだけでなく、ウィジェット掲載後のトラフィックの分析やマネタイズ(収入を得る)を可能とする基盤的技術を提供するものである。クリアスプリング(clearspring)、ウィジェットボックス(widgetbox)、フリーウェブズ(Freewebs)といった企業がウィジェットを管理するプラットフォーム環境を提供している。2007年7月時点で、クリアスプリングの環境を利用して提供されたウィジェットは65億個にも上る。米アップルが2007年中にリリースするとされている次期MacOSX(コードネーム:レオパード)には、ウェブ上のコンテンツをユーザーが簡単にウィジェット化するツールを組み込んでいる。つくづく感じることであるが、米国企業はこのようなプラットフォーム環境を提供するのが本当にうまい。気づいたときにはデファクトになっており、プラットフォームのユーザーから直接的、間接的に相当の利益を吸い上げるのである。

さらに、ウィジェットが金になることを嗅ぎ取ったウィジェット開発企業やウィジェット・プラットフォーム提供企業は、2007年7月にニューヨークにおいて開催された「ウィジェット・コン2007(WidgetCon 2007)」というイベントにおいて、ウィジェット・マーケティング・アソシエーション(WMA: Widget Marketing Association)という業界団体を設立した。フリーウェブズ、クリアスプリング、コムスコア、ロックユーなどが名を連ねている。この団体では、ウィジェット関連技術の標準化や、ウィジェットへの広告挿入の問題などを取り上げて、ウィジェット業界を利益を生み出す業界へと成長させていくことを目的としている。果たして、日本では、ブログパーツと呼ばれる以上の発展があり得るのだろうか。

米国で最もホットなウィジェット

今、米国で最もホットな話題と言えば、ウィジェット(Widget)であろう。ウィジェットは、ガジェット(Gadget)と呼ばれることもあるが、日本では主にブログ・パーツと呼ぶ人が多い。しかし、ウィジェットは、ブログだけでなく、PCのデスクトップ(Windows VISTAやMacのユーザーにはお馴染み)、SNS、インターネット対応のTV、また米国で発売されているiPhoneにも搭載されるソフトウェアである。

このウィジェットもユーザーとネットを「ダイレクト」に結ぶテクノロジーである。ウィジェットの中には、例えば、計算機や電子辞書などオフライン環境だけで利用可能な小道具的ツールもあるが、ネットからの情報を加工して小さなウィンドウで見せるオンライン環境で利用できるウィジェットが注目されている。

天気予報やオンラインゲームのようなエンターテイメント系のウィジェットを例にとると、何だかお遊び的な要素が強くなるが、米国ではウィジェットはウォールストリート・ジャーナルやビジネス・ウィークなどでも注目されているテクノロジーである。

ウィジェットが急速に注目され始めたのは、米国のSNSであるフェイスブック(Facebook)が、2007年5月、ウィジェットの開発者に向けてフェイスブックの環境をオープンにすると宣言したのが契機となっている。フェイスブックは、学生など若者を中心に人気が急上昇中のSNSであり、ウィジェットに対してオープンな立場をとっていない米国最大のSNSであるマイスペース(MySpace)と立場を異にしている面からも話題を呼んでいる。

具体的にどんなウィジェットがあるのかと言えば、フェイスブックが公表している人気ランキングによれば、トップフレンズ(Top Friends)、アイライク(iLike)というウィジェットがランキングされている。トップフレンズは、SNSのユーザーが自分の友達をスライドショー形式で見せるものであり、アイライクは、自分のお気に入りの楽曲のリストを表示する。このようにSNSでは、ウィジェットは自己表現のツールとして利用されているが、例えば、あるSNSユーザーのページを見に来た人が、そのページの脇に貼ってあるアイライクにリストアップされている楽曲に興味を示し、曲をクリックすると曲を実際に視聴したり、曲の購入サイトに飛んだりすることができる。ユーザーからすれば、SNS上の友達の趣味や嗜好をより深く理解できるし、音楽のマーケッター達からすれば、あらたに顧客を開拓しうる重要なツールとなる。

米国のビジネス界では、「ヴァイラル・マーケティング」(Viral Marketing、口コミによる市場開拓)の重要な手法としてウィジェットが注目されている。これまでは、ウェブでビジネスを行う企業は、リッチなコンテンツから構成されるホームページを作るなどして顧客が集まってくるのを待っていたが、これからはSNSのように沢山の人が集まっている場所へ出向いてウィジェットの形で情報を見せ、口コミによる話題を形成しないと生き残れないという訳である。フィードと同様に、ユーザーにウィジェットの存在を認識してもらうにはノウハウが必要だが、一旦、ユーザーがウィジェットを貼付けてくれれば、それだけで潜在的な顧客と「ダイレクト」な関係が構築できたようなものである。

ユーザーとネットをダイレクトに結ぶ、フィード

まず、初めに取り上げたい破壊的トレンドは、「ダイレクト(Direct)」である。これは、ユーザーがネットの中の情報と直接(ダイレクト)つながることを好み、また、ネット側もユーザーと直につながることを求めている時代の流れを表現した言葉である。

ブログやニュース系サイトなどで「RSS」、「ATOM」などと書かれた小さなボタンをご覧になったことがあるだろう。これがフィード(Feed)と呼ばれる「ダイレクト」なテクノロジーである。一般的には、フィードはサイトの更新情報を配信する技術だと解説されている。ユーザーがあちらこちらのサイトをいちいち見て回らなくても、予めフィード情報をフィード・リーダーと呼ばれるソフトウェアに登録しておけば、それらのサイトの更新情報だけを自動的にユーザーに直接届けてくれる技術である。フィード・リーダーは、コンピュータにインストールするタイプのソフトウェアもあるが、ウェブベースのフィード・リーダーやフィードを読むことのできるブラウザを使えば、世界中どこのコンピュータからでも、自分が登録したフィードによる情報だけを読むことが可能である。米国では、グーグル・リーダー(Google Reader)、ブログラインズ(Bloglines)が、フィード・リーダーとしてよく利用されている。フィードは、日本では、若手エンジニアの人たちの間ではある程度ポピュラーな技術になっているが、米国に比べると普通のビジネスマンで利用している人はまだまだ少ない。

フィードは、複数のサイトの更新情報を集めてくるというだけでなく、更新されたら直ちに配信してくれる点にも特徴がある。通常、自分が探している情報がネット上のどこにあるのか分からない場合には、文字通り「検索」することになる。グーグルにしろ、ヤフーにしろ、検索窓に検索のキーワード(クエリー)を入力して、結果を求めるのは非常に便利ではある。また、検索技術は、いくら時間が経過しても情報を探し出せ再利用できるツールであるという点では素晴らしい。しかし、自分の探している情報が検索エンジン・ロボットの巡回に見つからないとどうしようもない。特に、鮮度の高い情報は、直ぐには検索で引っ掛けることができない場合がある。しかし、一旦、フィードを登録しておきさえすれば、サイトが更新されれば直ちにユーザーのところに情報が配信される。

このフィードは、マーケティングの視点から極めて注目すべきテクノロジーである。なにせ、ユーザーが一旦フィード情報を登録すれば、ユーザーがサイトを訪問するのを待たなくとも、ユーザーに直接、鮮度の高い情報を届けることができるのである。このユーザーのロックイン効果が、「ダイレクト」のトレンドの本質であると思う。マーケッター達は、いかにしてユーザーにフィードを登録してもらおうかと躍起になるし、また、どういうフィードが、どんな人たちに、どのようにして読まれているのかという情報は喉から手が出るほど知りたい情報となる。

そこで、フィードの配信を容易にし、かつ、フィード情報のトラッキングを解析するようなプラットフォーム技術が必要となってくる。グーグルが1億ドルで買収したフィードバーナー(FeedBurner)という企業が、このようなプラットフォームを提供している。フィードバーナーは、ブログやポッドキャストの情報を、どんなフィード・リーダーでも読めるように配信するだけでなく、フィード情報を「ダイレクト」に読んでくれるユーザーの層を広げることができるテクノロジーを提供している。グーグルが、フィードバーナーを買収したことで、グーグル・アドセンス(Google Adsense)を利用しているユーザーは、これまでより以上に顧客層を広げることができると言われている。グーグルは、ユーザーに「ダイレクト」に情報を届けるフィードのテクノロジーを手中に入れたのである。

また、フィード情報を自由自在に加工して、自分なりのフィード情報を容易に生成するプラットフォーム技術も注目を浴びている。その代表格がヤフー(Yahoo)のパイプス(Pipes)である。例えば、米ニューヨークタイムス(New York Times)の記事の中で、ユーチューブ(YouTube)の映像を利用している記事だけを読みたいというユーザーが入れば、このヤフー・パイプスを利用すると簡単に自分のニーズに合致するフィードを生成することができる。ヤフー・パイプスは、あたかも、ニューヨークタイムスから配信されるフィード情報がパイプの中を通り抜ける際に、ユーチューブの映像だけを取り出すフィルターを途中に設置することで、求める情報がパイプの出口から吐き出されるような視覚的なインターフェイスになっている。

このヤフー・パイプスを使えば、ユーザーは、自分のところに流れてくる情報を自分流にカスタマイズすることが可能となる。つまり、個々のユーザー毎にお好みの情報の選択権が与えられることになる。まさに、ユーザー・エンパワーメントの時代に相応しいテクノロジーである。そして、自分向けにカスタマイズした情報の流れを一旦生成してしまえば、そのユーザーは、自分のプリファレンスにぴったりの情報にロックインされ、他の情報にあまり目を向けなくなってしまう。フィードは、マーケッター達からすれば、脅威でもあり、チャンスでもあるテクノロジーである。