10の破壊的トレンド

ビジネス・ウィーク誌が取り上げた今日的な破壊的イノベーションの事例はそれぞれ確かにそう思わせるものばかりである。しかし、個々の新しい技術やビジネスモデルだけに注目しても、時代の変化を示唆する大きな潮流(トレンド)は分かっているようで、つかみきれていない場合が多い。また、一見、全く異なるテクノロジーだと思われているものが、実は、同じトレンドの中の現象として捉え直すと、より理解が深まるにも関わらず、気づかれないままになっている場合もある。

毎日、ニュースやブログを流れる膨大な情報だけを流し見ているだけでは、情報オタクには成り得ても、その情報が持つ価値を十分に捉えきれない場合がある。しかし、あるトレンドの存在を仮説として置きながら、多くの情報を定点観測的に見続けて行くと、個々の情報が時代の変化の中でどういう位置づけを持つものなのかが見えてくると私は思っている。

また、技術やビジネスモデルのイノベーションは、それら自体が単体で生きながらえるものではなく、それらを利用する人(ユーザー、消費者)のプリファレンス(preference)に支えられている。ビジネス・ウィーク誌も破壊的イノベーションとして取り上げた「セカンドライフ(Second Life)を開発している米国のリンデンラボ(Linden Lab)社のCEOであるフィリップ・ローズデール(Philip Rosedale)は、2003年にセカンドライフを発表する以前にも、仮想世界のサービスを展開しようとベンチャー・キャピタリストに提案している。しかし、仮想世界というアイデアは陳腐なものだし、当時の半導体やネットワークのテクノロジーのレベルではユーザーを満足させられるほどのパフォーマンスを出せなかった。つまりユーザーのプリファレンスを満足させることができなかったのである。現在では、ITを支える半導体のスピードや容量、ブロードバンド回線速度やバンド幅が潤沢になり、ユーザーのプリファレンスを満足し得る環境になってきた。ユーザーは自由に自己表現を行い、見知らぬ人とネットワークを介してつながり、短時間で膨大な知識を身につけることが可能となった。ユーザーのプリファレンスを満足できるほどにテクノロジーが進化したことで、ユーザー主導(ユーザー・エンパワーメント)を前提としたサービスが次々と登場している。

そこで、私は、数多くの破壊的なイノベーションの登場とその背景にあるユーザー・エンパワーメントの時代変化を「破壊的トレンド」として捉えて見たい。
いくつかの破壊的なトレンドのキーワードを仮説として立て、その中で米国のIT系のテクノロジーの事例をできるだけ紹介することで、仮説的に立てた破壊的トレンドのキーワードを検証していきたい。

個々の破壊的トレンドの解説は、事例の紹介とともに追々行うとして、まずは次の10のキーワードを破壊的トレンドとして仮置きしたい。

「ダイレクト(Direct)」

「フリー(Free)」

「クラウドソーシング(Crowdsourcing)」

「プレゼンス(Presence)」

「ウェブオリエンテッド(Web-Oriented)」

「ヴァーチャル&リアル(Virtual and Real)」

「ビデオ(Video)」

「ユーザー・インターフェイス(User Interface)」

「サーチ(Search)」

「セマンティック・テクノロジー(Semantic Technology)」

の10のキーワードである。

数ヶ月かけて解説していくつもりであるが、その途中で仮置きしたキーワードを置き換える場合もあるので、その際はご容赦願いたい。

ビジネス・ウィーク流の破壊的イノベーション

イノベーションの創造に関して鋭い洞察力を持つ識者の一人は、米ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授(Clayton Christensen)であろう。本年6月、米大手ビジネス雑誌のビジネス・ウィーク(Business Week)では、1997年にクリステンセン教授が発表したベストセラー書である「イノベーションのジレンマ 〜技術確信が巨大企業を滅ぼすとき〜(”The Innovator’s Dilemma –When New Technologies Cause Great Firms to Fail”)」で示された視点は、10年経った今でも有効であるとしている。

同書は、顧客の意見に熱心に耳を傾け、新技術への投資を積極的に行い、常に高品質の製品やサービスを提供している優良企業が、その優れた経営のために失敗を招きトップの地位を失ってしまうという逆説的な内容で、ビジネス界でも話題になった。市場を一新するほどの破壊的な技術が、市場と企業の序列を変えてしまうことを示したのである。ビジネス・ウィーク誌は、「イノベーションのジレンマ」で取り上げられたディスク・ドライブや掘削機などの技術は、今日では破壊的技術と言われてもピンと来ないだろうが、もし、同書を今書き直すとしたら過去10年間を振り返って、こんな技術を取り上げたいとしている。

トヨタのプリウス(1997年)、グーグル(1998年)、ブラックベリー(BlackBerry、米ビジネスマン愛好の携帯情報端末)(1999年)、ミニッツ・クリニック(米ドラッグストアCVSが買収したウォークイン・クリニック)(2000年)、iPod(2001年)、セカンドライフ(Second Life)(2002年)、スカイプ(Skype)(2003年)、フェイス・ブック(Facebook、米若手学生などに人気のSNS)(2004年)、ユーチューブ(YouTube)(2005年)、任天堂Wii(2006年)という10のイノベーションを現代での破壊的イノベーションとして紹介している。