「プレゼンス」情報を、エンターテイメント分野だけでなく、地域や都市の運営に適用しようとする試みもある。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のセンシアブル・シティ研究所(senseable city lab)では、センサーや携帯端末から得られる「プレゼンス」情報を利用した「リアルタイム都市」を目指していくつもの研究プロジェクトを実施している。
2006年に始まった「リアルタイム・ローマ(Real Time Rome)」プロジェクトでは、ローマを練り歩く人たちの携帯電話の通信データを分析して、人々の往来を示す地図を作成した。携帯電話の位置情報を一定間隔で地図に匿名表示することで、都市計画の政策担当者は街の動きをリアルタイムに把握することが可能となった。
また、同研究所は、MITのキャンパス内にいる人の位置情報を捉え、ソーシャル・ネットワーキングとして利用する「アイファインド(iFIND)」プロジェクトを実施している。通常、キャンパスでは、学生、教員とも自分のデスクを離れた時間が多く、カフェやラウンジ、場合によっては木陰で本を読んでいるときもある。そんなときに、自分の探している人がどこにいるのかがリアルタイムで分かる「プレゼンス」情報が入手できれば、ミーティングの約束を取り付けるのに時間を無駄にすることもない。アイファインドは、Javaプラットフォームで作動するソフトウェアをダウンロードするだけで、WiFiネットワークを利用して友達の居場所を探し、インスタント・メッセンジャー(IM)で直接会話をすることが可能だ。ユーザーは友達ごとに異なる小さなアバターを作成できる。友達にマウスを重ねると、友達の名前とその場所の建物や部屋の名前がポップアップ表示される。
アイファインドは、完全なオプトイン方式(自分が参加するという意志を表明しない限り、ネットワークに組み入れられない)の暗号化システムによってプライバシーが保護されている。ユーザーは自分の位置情報を誰が閲覧できるのかを決めることができる。ピア・ツー・ピア(P2P)ベースなので、システム管理者が個人の位置を追跡することはできない。徹底的にプライバシー保護に取り組んでいる。
このMITのセンシアブル・シティ研究所は、更に研究テーマを拡張し、人の位置情報を一方的に捉えるだけでなく、その情報を生かして都市が反応する双方向型のウィキ・シティ(WikiCiti)プロジェクトを2007年から開始している。このプロジェクトでは、位置情報や時間情報を蓄積、交換できるプラットフォームを構築し、これらの情報を都市内の携帯端末やウェブサイト、信号や標識などにフィードバックすることで、都市システムの効率性をさらに向上させるものだという。
都市の中には、位置情報、時間情報だけでなく、天候情報、環境情報、交通情報など多くの「プレゼンス」情報がある。これらの膨大な情報をリアルタイムに蓄積、分析し、瞬時にその結果を都市にフィードバックするには、まだ課題が多いが、次世代の都市運営には欠かせないテクノロジーとなるだろう。