世界初のセマンティック・ゲーム

セマンティック技術とウィキ技術を統合すれば、ユーザーが自由に製作するコンテンツにメタデータとして意味情報を与え、オントロジー(Ontology)と呼ばれる構造を構築することができる。

ビジュアル・ナレッジ・ソフトウェア(Visual Knowledge Software)は、このようなセマンティック・ウィキを構築するプラットフォームを提供している。非常に難しく聞こえるが、実際にセマンティック・ウィキ技術を活用しているのは、3Dのオンラインゲームの製作らしい。

ビジュアル・ナレッジのプラットフォームを利用して世界初のセマンティック・ゲームの製作を行っているのは、ヴァンクーバーにあるカラカサ・ゲーム(CaraCasa Game)である。ゲームの名前は、トレジャー・ハント(Treasure Hunt)という。主人公は、救助船の船長になり、カリブ海で海賊達による妨害から逃れながらも宝を積んだ難破船を探すというものである。

カラカサ・ゲームの創業者であるロジャー・テイラー(Roger Taylor)がゲームの構想に20年も費やしたという割には、ゲームのシナリオにはさほど驚きはないが、ゲームの製作の過程でセマンティック・ウィキの技術を利用したという。詳しいことは明らかにされていないが、ゲーム自体が2007年の第3四半期に公開されるらしいので、セマンティック・ウィキの内容に触れることができるようになるだろう。

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ブラウザもセマンティックに

セマンティック技術は、ウェブサイトのブラウジング(閲覧)の最中にも生かせることができる。ユーザーがサイトの中で何の情報を眺めているのかが分かれば、その次に適切なリンク先にユーザーを誘導することができる。

アダブティブ・ブルー(AdaptiveBlue)のスマートリンク(SmartLinks)は、ユーザーが、映画、音楽、俳優、アーティスト、株価、レストラン、ワイン、映像、レシピなど、何の情報を見ているのかを判別する。サイト内のブルーの小さなアイコンをクリックするだけで、例えば、私がアルバムの情報を見ているとすれば、セマンティックにその情報を解析し、その内容が音楽に関する情報であると判断する。すると小さなアイコンをクリックするだけで、アマゾン、アップル・アイチューンズ、ラストエフエム(Last.fm)、ラプソディー(Rhapsody)などの音楽試聴・購入サイトへ誘導してくれる。

スマートリンクを利用するなら、ファイアーフォックス(Firefox)の機能拡張としてブルーオーガナイザー(BlueOrganizer)をダウンロードすればよい。同社は、ブルーオーガナイザーをスマート・ブラウジング技術と呼んでいる。また、ブルーオーガナイザーは、解析エンジンがユーザーの閲覧履歴を考慮するように設計されているため、ユーザーが利用しないサイトには誘導しない。ブルーオーガナイザーは、特定のサイトを深く閲覧する人にはあまり必要性は生じないかもしれないが、多様なサイトを閲覧する人にとっては、非常に便利であろう。

期待高まるセマンティック検索

セマンティック技術は、ネット系企業のインフラなどエンタープライズ分野だけでなく、コンシューマ分野でも徐々に利用され始めている。先の「2007セマンティック・テクノロジー・カンファレンス」でも、スタートアップ企業による試みがいくつか紹介されている。

米アスクミーナウ(AskMeNow)は、携帯電話のショートメッセージでの質問の意味を捉え回答するサービスである。電話番号案内、天気予報、映画上映情報、スポーツのスコア、ナビゲーション、星占い、旅行情報、株価情報などの簡単な情報検索だけでなく、「昨年にオスカー賞を受賞した映画は何か?」、「風船ガムはいつ発明されたか?」、「空は何故青いのか」といった高度な質問にも答えられるという。携帯電話のショートメッセージとして尋ねたいことを入力して、ASKME(27563)にダイヤルするだけである。

次に、まだサービスが提供されてはいないが、本格的な「ウェブ3.0」とか「セマンティック・ウェブ」が登場するかと噂されているのが、米サンフランシスコにあるレーダー・ネットワークス(Radar Networks)である(同社は自らを「インテリジェント・ウェブ」と称している)。同社は、アースウェブ(EarthWeb)の共同創業者であったヴィジョナリストのノヴァ・スピヴァック(Nova Spivack)が2003年に設立した。

ノヴァ・スピヴァックは、2000年から2010年までがウェブ2.0の時代であり、その後2020年までがウェブ3.0のフェーズだという。ウェブ3.0時代は、セマンティック検索、セマンティック・データベースなどセマンティック技術の黄金期だとしている。さらに彼は、2020年から2030年はウェブ4.0(ウェブOSの時代)になり、分散検索やインテリジェント・パーソナル・エージェントの技術が現れるとまで予測している。

レーダー・ネットワークスが注目されているもう理由の一つは、ビルゲイツとともにマイクロソフトの共同創業者であるポールアレンが運営しているヴァルカン・キャピタルから2006年に出資を受けたからである。同社のサービスの質はまだヴェールに包まれており、2007年中にベータ版が公表される予定だ。

実用化が始まるセマンティック技術

コンピュータは、人間が入力した情報を忠実に実行するが、通常、その入力された情報の意味を人間のように理解している訳ではない。情報の意味や情報の関連性などを理解し、その理解に基づいて処理を行うのが、セマンティック技術である。

セマンティック技術に関する米コンサルティング会社であるプロジェクト10X(Project10X)は、2006年のセマンティック技術の市場規模は21億ドル程度に過ぎないが、2010年には524億ドル、2015年には5,020億ドルに急速に成長すると見込んでいる。セマンティック技術が適用されるのは、データの統合、情報検索、情報共有分野などが代表的である。

実際にどのようにセマンティック技術が適用されているのかを見てみよう。2007年5月に米カリフォルニア州サンノゼで開催された「2007 セマンティック・テクノロジー・カンファレンス(2007 Semantic Technology Conference)」では、多くのスタートアップ企業の参加者が大半であったが、その他にも、航空宇宙局(NASA)、国防総省(DOD)、米空軍(US Air Force)などの政府機関を始め、ロッキード・マーチン、ボーイング、フォード・モータース、マイクロソフト、IBM、オラクル、サン・マイクロシステムズ、グーグル、ヤフー、ウォールマートといった大企業からの参加もあった。

このカンファレンスで紹介された例として、セマンティック検索技術企業であるテキストディガー(TextDigger)が持つソリューションを活用した米IT系ニュース企業のシーネット(CNET Networks)の例を取り上げる。

シーネットは、一般的なIT関連のニュースであるCNet News、ガジェットのレビューを紹介するCNet Review、ショッピングサイトのCNet Shopper、エンタープライズIT関連ニュースを提供するZD Netなど、多くのサイトを運営している。これらのサイトには検索機能があるが、過去に入力された検索キーワード(クエリー)の情報を基にして、入力したクエリーとそれに関連した情報も検索できるコラボラティブ・フィルタリング(Colaborative Filtering; CF)機能が搭載されている。しかしCFを利用した検索は、頻繁に利用されるクエリーに関しては多くの関連情報が検索されるが、検索頻度が少ないクエリーに対しては関連情報が少なくなるというロングテール現象が起こる。

そこで、シーネットは、テキストディガーが開発した多義性解消技術(Word Sense Disambiguation : WSD)を採用した。WSDとは、自然言語処理技術の一つで、多義語の意味を文脈に応じて特定し、検索時の質問の曖昧さを解消してくれる。この技術によって、ユーザーが入力したクエリーに当てはまる情報がない場合でも、そのクエリーに似た意味を持つ情報を取り上げた検索結果が表示されるために、キーワード検索のロングテール化を防ぐことができるという。

また同時に、WSDの技術はキーワード広告の収益を向上させることができる。従来はクエリーに関連した広告まではカバー出来ず、ユーザーに届けることができていなかった。しかし、WSD技術を採用したおかげで広告がユーザーの目に触れる機会が拡大し、実際、広告のクリック率も7.9%から19.1%まで向上したという。

セマンティック技術の他の応用例を見てみよう。セマンティック技術は、情報の意味を捉えることができるので、字面だけを見ると異なる情報でもその意味を把握することにより、情報の共有や名寄せなどに利用されることが期待されている。

米ヤフーもセマンティック技術を利用している企業の一つであり、コンテンツの共有や再利用に活用している。ヤフーでは、社内の各担当部門が、金融情報(Yahoo Finance)、飲食情報(Yahoo Food)、映画情報(Yahoo   Movies)、カジュアルニュース(Yahoo Underground)などのウェブサイトを独立して構築している。そのため、膨大な量のコンテンツが分散して蓄積されている。そこで、同社は、コンピュータが取り扱う情報の分類や検索などの自動化・効率化に有効なRDF(Resource Description Framework)と呼ばれる仕様の専門家をヤフー・メディア・グループに迎え、RDFなどのセマンティック技術を使ったウェブサイトの構築に力を入れている。セマンティック技術を取り入れた同社では、異なるサイト間においてコンテンツの共有・再利用を可能にし、ユーザーが分野を横断した関連コンテンツを検索することが可能となり、ユーザーの使用感が改善されると期待されている。

まだ、セマンティック技術は開発途上ではあるが、徐々に実用化されているのである。