オンライン動画編集サイトでUGM製作

セカンドライフに進出している大企業が製作したコンテンツがありきたりの内容でつまらなく、名もないユーザーがアイデア凝らして製作したコンテンツの方が面白いという現象はよくある。これと同じで、動画配信も大手配給会社が提供している著作権で保護された映像よりも、ユーザーがリミックス(素材の再構成)してアップロードした映像の方が面白いことがある。

製作したUGM(ユーザー生成メディア)を公開できる場所は、 ユーチューブ、ヤフービデオのような動画共有サイトから、ブログ、SNSに至るまで急増した。では、UGMをどうやって製作するかと言えば、動画編集専用のソフトウェアを使うというのがこれまでのパターンだろう。しかし、ここに来て、UGM製作環境をオンラインで提供するプラットフォームが次々に登場してきた。いずれも無料のサービスである。

2007年6月、ユーチューブは、アドビの動画編集ソフトであるプリミエール(premiere)のSaaS(Software as a Service)版であるプリミエール・エキスプレス(premiere express)をベースにしたユーチューブ・リミックサー(YouTube Remixer)をベータ版で提供した。これは、自分が撮影した写真や動画を素材にして、ドラッグ&ドロップの簡単な操作で、エフェクトを付けたり、吹き出しを入れたり、場面転換を使ったりすることができるものだ。また、出来上がったリミックス・メディアをユーチューブやDVDやiPodなどを使って公開、共有することができる。

実は、このようなオンライン動画編集サイトには、優良企業が既に参戦している。2005年にサンディエゴを拠点に設立されたアイスポット(Eyespot)は、簡単な操作で、トリミング、各種エフェクト、音楽編集などの機能を提供し、使える動画や音楽も用意されている。また、リミックスされた動画は、ライブジャーナル(Livejournal)などのブログやベオ(Veoh)などの動画共有サイトに公開することもできるし、アイスポット内に設けられたグループページで共有することもできるという、ソーシャルな機能も持っている。そして、2006年9月にヤフーから買収されたジャンプカット(Jumpcut)も、このアイスポットと同様の機能を持っている。

いわゆるこのような「ビデオ版フォトショップ(Photoshop)」のニーズはますます高まるであろう。今は、動画にテキストのタグを付けてフォークソノミーとしての利用が進んでいるが、今後、動画の内容自体を自動的に識別してインデックスを付与する技術や、リミックスをする際に、動画の内容を把握して必要なファイルを検索したり、動画どうしのパターン・マッチングさせたりすることのできる技術の開発が待たれるだろう。テキストを編集加工するワードプロセッシング技術が登場した後、爆発的に電子文書が作成・編集・保存されるようになった。それに伴い、テキストの検索技術やファイル管理技術が進化した。ビデオ(動画)についての技術進化はまだこれからだ。

開発競争が進むIPTVアプリケーション

PCの操作に慣れた人だけでなく、TVの視聴が主である人にまで、インターネットTV(IPTV)をポピュラーなものにするためには、体感にすぐれたIPTVアプリケーションが不可欠だ。最近になって、TVの操作に極めて近いインターフェイスを持ち、オンデマンドなど、TVにはない機能を提供するIPTVアプリケーションが次々に台頭し、熾烈な開発競争が起きている。

まずは、VoIP(インターネット電話)で有名なスカイプやP2Pテクノロジーの老舗のカザー(Kazaa)の創業者であるニコラス・センストロム(Niklas Zennstorm) とヤヌス・フリス(Janus Friis)が立ち上げたジュースト(Joost)がアドバンテージを取っている(コードネーム:ベニス・プロジェクト(Venice Project))。ジューストは、PC上でTVのような操作感を持つP2P技術を利用したアプリケーションであり、無料で著作権で保護されたコンテンツを視聴できる。もちろんケーブルTVのSTB(セットトップボックス)は不要だ。配信するコンテンツは、DRM(著作権保護技術)を組み込んでいるので、MTV、コメディセントラル(Comedy Central)、CNN、ソニーピクチャーズ、CBS、ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)などの大手配信企業が供給している。ジューストのアプリケーションにはSNS的要素もあり、チャンネル毎のチャットルーム、IM(インスタトメッセンジャー)、RSSベースのニュース・ティッカーなどのウィジェット(Widget)をアプリケーションの中に組み込んでいる。画質には改善の余地があるが、インターフェイスの出来具合と、コンテンツ配給企業との協力関係が素晴らしい。

ジューストの対抗馬として話題になっているのは、イタリアの大富豪シルヴィオ・スカーリャ(Silvio Scaglia)が創業したバベルガム(Babelgum)である。バベルガムもP2P技術を利用し、ジューストのようなTV的使用感を提供しているが、配信されるコンテンツはジュースと提携しているような大手企業ではない。どちらかと言えば、ニッチなコンテンツをニッチな視聴者向けに提供することを目指している。その意味では、ロングテールなIPTVだ。

そして、ジューストやバブルガムとも異なる路線を行くのがベオTV(VeohTV)である。ベオTVは、ライセンス契約で制約されることなしに、NBC、CBS、FOX、ユーチューブ、マイスペースなどから動画を引いて(pull)いる。また、ベオ(Veoh)の独自の動画共有サイトの映像も利用している。さらに、ベオTVは、ジューストと異なり、どんなDRMフリーの動画でもファイル形式によらずダウンロード・保存を可能にしているオープン路線を売りにしている。

ザトゥー(Zatto)は、オンデマンドでないが、P2P技術を利用して、PC上でリアルタイムの地上波或いはケーブルTVの番組を流してくれる。CNN、BBC、CNBCなどの番組をPC上で流しながら、IM、ウェブサーフィン、メールなどの操作ができる。現在は、ベータ版で無料であるが、将来は無料のベーシック版と有料のプレミアム版が設けられる予定である。広告はプリロール方式をとっている。残念ながら、プロキシサーバーで迂回でもしない限り、現在日本からのアクセスはできない。

そして、今話題になっているIPTVアプリケーションが、ユーチューブ・キラーという謳い文句で登場したフル(Hulu)である。フルは、NBCユニバーサルとニューズコーポレーション(News Corporation)が共同で立ち上げつつあるサイトであり、10月にプライベート・ベータ版を提供するようで、現在、招待用アカウントの申請を受け付けている。まだ、その実力は未知数だ。

このように競争が激化しているIPTVアプリケーション分野にPCメーカーも参入してきた。2007年9月、HPは、同社が今後発売する一部のノートパソコンに、IPTVプロバイダーのデーヴ・ネットワークス(Dave Networks)が開発したアプリケーションをNext.tvというブランドで搭載すると発表した。合計50チャンネルのコンテンツを提供するという。

日本では、はてながサービスしているリモ(Rimo)の出来が素晴らしい。PCだけでなく、Wiiブラウザにも対応しており、TVのように「ダラ見」ができる非常に使いやすいインターフェイスである。動画へのコメントや、ブログ及びトゥイッター(Twitter)への投稿などソーシャルな機能も兼ね備えている。コンテンツは、先に紹介したIPTVアプリケーションと異なり、ユーチューブの人気動画である。英語版でもリリースされ、先に紹介した海外のIPTVと互角またはそれ以上の出来映えであるので、日本の著作権保護されたコンテンツの輸出戦略と協調していない点が非常に残念だ。

勢いづく無料ビデオ配信サービス

有料ビデオダウンロードの各サービス比較については、ラスト100(last100)が11のビデオダウンロードを取り上げて評価している。

アップルの「アイチューンズ・ストア(iTunes Store)」を始め、パラマウントピクチャーなど5つの大手映画会社が設立した「ムービーリンク(Movielink)」(最近DVDレンタル企業のブロックバスター(Blockbuster)が買収)、フォックス・インタラクティブ・メディア(FOX Interactive Media)のビデオゲーム部門であるIGNエンターテイメントが所有する「ダイレクト2ドライブ(Direct2Drive)」、P2P技術を用いた「ビットトレント(BitTottent)」、250社以上のスタジオから映画、TV、ミュージックビデオの提供を受ける「シネマナウ(CinemaNow)」、2007年9月にNBCがアイチューンズから乗り換えた「アマゾン・アンボックス(amazonunbox)」、マイクロソフトが提供する「エックスボックス・ライブ(XBox Live)」、独立系映画や外国映画に特化した「ジャマン(Jaman)」、ハリウッド映画も独立系映画も取り扱う「グーバ(GUBA)」、DRM(著作権管理技術)フリーのMPEG4映像を取り扱う「ハングリー・フリックス(HungryFlix)」、DRMフリーだがクレジットカード保有者の名前を映像ファイルに書き込む技術を持つイギリスのスタートアップ企業「ストリームバースト(Streamburst)」を取り上げている。

ラスト100は、これら有料ビデオダウンロードは、まだまだ価格面や使い勝手の面での開発競争が足りず、十分な競合関係が生じていないとしている。特に、マイクロソフト・ウィンドウズ・メディアDRMを利用しているサービスが多いため、マックやリナックスのユーザーが使用できない。一方、同じDRM技術を利用しているサービスが多いにも関わらず、サービス毎に異なるダウンロード・マネージャーを必要とし、使用感も全く異なるのでユーザーを戸惑わせると評価している。

前回紹介したフォレスター・リサーチの報告にあるように、有料ビデオダウンロードはまだ一部のニッチなユーザーにしか受けておらず、市場としては未成熟な状況なので、イノベーティブな開発競争が不十分な点が多い。

一方で、無料のビデオサイトは成長を続けている。2007年4月にニールセン・ネットレーティング(Nielsen Net Rating)が発表したトップビデオサイトを見ると、月間のユニークビジター数が1,000万人を超えるものは、ユーチューブ(YouTube)46百万人、グーグルビデオ(Google Video)17百万人、マイスペース・ビデオ(vids.myspace.com)15百万人、ヤフービデオ(Yahoo! Video)15百万人、MSNビデオ13百万人、AOLビデオ13百万人という順で、いずれも高い成長率を維持している。10百万人以下のビデオサイトとしては、続いて、メタカフェ(Metacafe)、ブレイク(Break.com)、アイフィルム(iFilm)、ベオ(Veoh)などが月間百万人以上のビジター数を誇る。

2007年8月、グーグルビデオも有料版の動画配信サービスを廃止し、ユーチューブを使ってネット広告と連動した無料配信サービスに注力すると発表した。フォレスター・リサーチの見方を裏付けるものだ。

有料ビデオダウンロードは死に体か

動画は、電波という希少な資源を利用して、放送局だけが送出することのできる情報ではなくなった。IT環境が潤沢になり、IP(インターネット・プロトコル)上では帯域幅自体が意味をなさなくなり、ユーザー自身がユーザーが製作した動画を送出することができるようになった。

また、映画やドラマなど著作権で保護された動画についても、権利保有者が従来のチャネル(TV、映画館、DVDなど)以外の配信チャネルとしてIPを選択するようにもなってきた。米国では、日本と違ってIP上の動画配信(IPTV)が爆発的に普及する兆しとなるサービスが次々と台頭している。

また、これに伴い、米国では広告のあり方も大きく変化しており、プリロール(pre-roll)広告(配信前広告)だけでなく、配信中広告やユーザーに違和感を感じさせない番組内広告についても研究が進んでいる。

日本でもUGC(ユーザー生成コンテンツ)分野では、ユーチューブ(YouTube)のような米国のサービスを利用するだけでなく、日本人得意の改良を施したニコニコ動画のような楽しみ方が広がっている。権利保護されたコンテンツについては、ワンセグ機能が全ての携帯電話に搭載される勢いであるが、PCベースでの動画配信は米国に比べるとメジャーではない。そのため、広告ビジネスの危機感も米国ほどではないように見える。一方、現代の3種の神器であるDVDレコーダの普及度は高く、その通信機能を用いれば、現状より精密な視聴率を把握することも可能であり、広告出稿形態は従来どおりであっても、より効果の高い広告を配信するような工夫は今後本格的になされてくるだろう。

米国では、ベライゾン・ワイヤレス(Verizon Wireless)のヴィキャスト(VCast)など携帯電話での動画配信(ワンセグではない)についてはユーザーの認知度が低く、ビジネスとしてもまだ成立していない。その反面、IPベースでの動画配信は、これまでケーブルTV中心だった米国の家庭内に徐々に浸透しつつある。米調査会社アイサプライ(iSuppli)が、2007年7月に発表した調査結果によれば、米国の消費者の3分の2が、TVがインターネットに接続されることを希望しており、ネットワーク接続可能な家庭内機器(DVDレコーダ、デジタルテレビ、セットトップボックスなど)の2011年の市場(733百万ドル)は、2006年(225百万ドル)の市場規模の3倍以上にもなると予測している。

IPベースの動画配信をより細かく見ると、2007年5月に米フォレスター・リサーチ(Forrester Research)が発表した「有料ビデオダウンロードに将来はない(No Future For Paid Video Downloads)」というレポートが興味深い。その内容は、有料ビデオのダウンロードは2007年がピーク(2.79億ドル)で、それに代わって広告モデルがオンラインビデオの主流になるというものだ。アップル、アマゾン、マイクロソフト、ウォールマートが、テレビ番組や映画を有料で所有又はレンタルできるダウンロードサービスを始めたが、そのユーザーはオンラインを利用する成人の9%に過ぎず、このようなコンテンスにいくらでも金を払う用意のあるニッチのメディア中毒者であるという。