データ版ユーチューブ

人間の五感とコンピュータとの接点という意味でのインターフェイスには、長い進化の歴史がある。シリコンバレーはマウンテンビュー(Mountain View)のグーグル本社の近くにあるコンピュータ歴史博物館(Computer History Museum)に行くと、木で製作されたマウスなどが展示されており、先人達がインターフェイスの研究開発に取り組んできた苦労が分かる。いずれのインターフェイスも人間の簡単な入力操作で必要な情報をコンピュータに伝え、コンピュータ内で処理された情報を如何に人間に分かりやすい形で出力するかという面で工夫がなされてきた。

そして、IT環境が潤沢になった今では、コンピュータの情報処理量が増えたために、音声や画像などを利用したリッチなインターフェイスが日常的に使用されるようになった。また、各種センサー技術の進展とも相まって、加速度や圧力など力学的な情報もコンピュータ側に伝えることが可能となるなど、人間にとって直感的につかみやすいインターフェイスが開発されている。

このように、インターフェイスは人間とコンピュータとを結ぶ情報仲介者であるというのが基本であるが、最近では、膨大な情報(データ)を視覚化(Visualization)することで、これまで見えなかった情報の持つ意味を新たに人間に気づかせる役目まで果たすことができるようになっている。

2007年1月にIBMのビジュアル・コミュニケーション・ラボ(Visual Communication Lab)が発表したメニー・アイズ(Many Eyes)は、膨大なデータを視覚化し、これまで文字や数字の羅列だけを眺めていただけでは分からなかったパターン(Pattern)を人間に発見させてくれるテクノロジーである。会社の売上げデータからフットボールの試合結果、はたまた構造化されていない電子メールの情報に至るまで、あらゆるデータを視覚化し、また、これらのデータどうしにソーシャルな性格を持たせる機能ももっている。

ユーザーが所有するデータをメニー・アイズのフォームに読み込ませると、16種類の好きなデータチャート(ネットワーク・ダイアグラム(Network Diagram)、トゥリーマップ(Treemap)、バブルチャート(Bubble Chart)、タグ・クラウド(Tag Cloud)など)を選んで、Flashベースでビジュアルに眺めることができる。眺めるだけではなく、出来上がったチャートを違ったデータチャートで見たり、データサブセットの検索や解析も行うことができる。例えば、タグ・クラウドを選択した場合、長文のスピーチ原稿をメニー・アイズに読み込ませると、そのスピーチの中で使用頻度の高い単語が何かをすぐに判別することができる。あるいは、あるイベントの膨大な参加者リストを読み込ませると、参加者にどういう傾向があるが分かるという訳だ。

また、視覚化されたデータをブログに貼り付けたり、タグ付け(Tagging)やレーティングしたりすることにより、これらのデータを介してユーザー間にソーシャルな関係を持たせることができる。例えば、経済学者達がそれぞれ分析データを持ち寄ってメニー・アイズにアップし、タグを介してコミュニケーションを取ることなどが想定されるだろう。その意味で、メニー・アイズは、「データ版ユーチューブ(YouTube)」、「データ版フリッカー(Flickr)」と言い換えることもできる。

メニー・アイズ同様に、「データ版ユーチューブ」と言われているのが、スウィヴェル(Swivel)だ。2007年4月にサンフランシスコで開催されたWeb2.0Expoというイベントで、同社のCEOであるブライアン・マロイ(Brian Mulloy)がスウィヴェルのサービス内容を紹介していた。基本的には、メニー・アイズと同様の機能をもっており、実際に、OECD(経済協力開発機構)からのデータ提供も受けているとPRしていた。スウィヴェルは、アップロードしたチャートに対して、他のユーザーがコメントを付ける機能も備えており、メニー・アイズ同様にソーシャルメディアを意識している。

どちらも、データの視覚化とソーシャライズにより、ユーザーに新たな発見を与えるインターフェイス・テクノロジーである。

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